1910年に刊行された第一歌集『一握の砂』は、彼の文学的評価を決定づけた不朽の名作だ。生活の哀哀や故郷への郷愁を三行分かち書きという独自の形式で詠んだこの作風は、それまでの短歌の概念を大きく覆した。
「じっと手を見る」という有名な一節に象徴される切実な困窮。だが、その切なさを歌いながらも、実際には借りた金を散財していたという矛盾こそが、啄木という人間の真骨頂だ。清貧の歌人としての顔と、欲望に負けるクズとも言える素顔。この強烈な二面性と身勝手なまでの人間らしさがあったからこそ、偽りのない生の叫びが100年以上の時を超えて人々の心を揺さぶり続けるのだろう。