ワールドカップ終了後、世界中のファンが最も関心を寄せたのが「あの豪華なスタジアム群は大会後どうなったのか」という疑問です。メガイベント後のスタジアムが維持管理費ばかりを垂れ流す「負の遺産(白象)」と化す現象は世界各地で繰り返されてきました。カタールはその対策として、あらかじめ大会後の解体や縮小を組み込んだ先進的な施策を掲げていました。
なかでも注目を浴びたのが、ドーハの国際ダイヤル番号「+974」にちなんで974個のリサイクル輸送コンテナを組み上げて作られた「スタジアム974」です。W杯史上初となる「完全解体可能な仮設スタジアム」として建設され、大会終了直後に即座に解体され発展途上国へ寄贈される計画でした。
しかし、2026年現在の現実は計画通りに一直線には進んでいません。大会直後の2026年、部材の解体作業に着手したものの、輸送コストの高騰や寄贈先国(アフリカ諸国やウルグアイなどの招致候補地)とのインフラ受け入れ交渉が難航しました。さらに、2026年初頭にカタールで代替開催されたAFCアジアカップ2026や各種大型コンサート会場としての需要が発生したため、コンテナ構造の完全な搬出は段階的なスケジュールへと変更されました。現在は部材ごとのリユースや、周辺ウォーターフロント地区の商業・レジャー複合開発へと姿を変えつつあります。
一方、メッシがトロフィーを掲げた最大会場「ルサイル・スタジアム(約8万人収容)」の現在も見逃せません。同スタジアムは、観客席の上層部を大幅に撤去して約4万席規模へとコンパクト化し、生まれた空きスペースを学校、クリニック、カフェ、住宅、ショッピングモールへとコンバージョン(用途転換)する計画が進められています。2026年のアジアカップ決勝でも再び満員の観衆を集めるなど、単なる記念碑に終わらせず、新都市ルサイルの中心コミュニティハブとして実用的な稼働を継続しています。
また、「アル・バイト・スタジアム」は上層階が五星ホテルやショッピングセンターへ改修され、「アル・ジャヌーブ・スタジアム」も座席数を半減させて地元クラブ「アル・ワクラSC」の本拠地として地域密着型で活用されるなど、人口300万人足らずの小国においてスタジアムを遊休化させないための緻密な跡地利用が実行されています。