私たちがメディアで目にするニュウドウカジカの写真は、ほぼ例外なくトロール網によって海底から引き揚げられた個体です。なぜあそこまで原型を留めない姿になってしまうのか。その最大の要因は、深海と地上の圧倒的な「水圧差」と独自の身体組織にあります。
ニュウドウカジカの主な生息地は、オーストラリア南部、タスマニア沖、ニュージーランド周辺の水深600〜1,200メートルの海底です。この深度では、地上(1気圧)の60倍から120倍、すなわち1平方センチメートルあたり約60〜120キログラムの巨大な水圧が常時かかっています。
通常の硬骨魚類は体内に気体で満たされた「浮き袋」を持ち、浮力を調整しますが、水深1,000メートルでは気体が圧縮されて機能しません。そこでニュウドウカジカは進化の過程で浮き袋を完全に捨て去り、海水よりもわずかに比重が軽い「密度の低いゼラチン質の肉体」を手に入れました。このプルプルとした水分を多く含む肉体こそが、深海の高圧下で外圧と体内圧のバランスを完全に保ち、エネルギーを一切消費せずに海底直上をホバリングするための完璧な構造なのです。
しかし、網にかかって急激に海上へ引き揚げられると、強大な外圧が一気に消失します。さらに、引き揚げ時の網擦れで極めて薄くデリケートな皮膚が剥がれ落ち、深海の水圧によって保たれていた筋肉とコラーゲン組織が自重を支えきれずに液状化のように崩壊します。これが、ニュウドウカジカがブサイクと呼ばれる理由の残酷な真相です。彼らは決して醜く生まれたのではなく、人間の手によって極限環境から引きずり出された結果、あの姿になってしまったのです。