宿敵ホセ・メンドーサとの世界タイトルマッチは、壮絶を極める死闘となりました。当時のリングサイドにおいて、すでにジョーの肉体は過酷な戦歴によるパンチドランカー症状に蝕まれており、焦点の定まらない視界や手の震えを気力だけでねじ伏せて戦い続けていました。コークスクリュー・パンチをはじめとする王者の猛攻を浴びながらも、決して倒れずに前進し続けるジョーの鬼気迫る闘志は、百戦錬磨の王者ホセに底知れぬ恐怖を植え付け、試合終了時には白髪へと変貌させるほどの精神的打撃を与えます。
15ラウンド終了のゴングが鳴り響き、試合結果は判定へと持ち込まれました。公式スコアによる判定負けが告げられた瞬間、セコンドの丹下段平が駆け寄ったコーナーで、ジョーは静かに腰を下ろしていました。「燃えつきたぜ…まっ白によ…」。かつてドヤ街の片隅で白木葉子に語った「ほんの瞬間にせよ、まぶしいほどにまっ赤に燃えあがるんだ…そしてあとにはまっ白な灰だけが残る」という言葉通りの光景がそこにありました。
丹下段平 最後の言葉となった「ジョー…?」という呼びかけに対し、丈は穏やかな微笑みをたたえたまま応えることはありませんでした。この描写が「力尽きて息を引き取った」と受け取られる契機となりましたが、描かれているのは凄惨な肉体の死ではなく、魂の完全燃焼を果たした人間の神々しいまでの充足感です。