荒川が形成した深くだん崖絶壁の天然の要害に立つ鉢形城跡は、関東の戦国史を語るうえで絶対に外せない要衝だ。この地を拠点とし、武蔵国の北部に確固たる支配体制を築き上げたのが、小田原北条氏の重臣として名を馳せた北条氏邦である。彼は単なる武将にとどまらず、民政や治水にも長けた稀代の戦術家として知られ、城郭の拡張と城下町の形成に全力を注いだ。
埼玉県内でも屈指の規模を誇るこの城郭遺跡は、発掘調査と復元整備によって、かつて豊臣秀吉の軍勢による大包囲網に耐え抜いた土塁や曲輪、復元された門などが忠実に再現されている。雑木林の木漏れ日を浴びながら堀底を歩くと、かつて武者たちが駆けた足音が聞こえてくるかのような静かな迫力に包まれる。歴史の重みに浸れる稀有な空間がここにある。