1973年、講談社が発行する「週刊少年マガジン」で連載がスタートした『釣りキチ三平』は、当時の漫画界に劇的な革命をもたらした。しかし、その誕生の舞台裏には編集部との熾烈な議論と、矢口自身の並々ならぬ執念が存在していた。
当時の少年誌では、SFやスポ根、アクション作品が全盛を極めていた。「釣りをテーマにした地味な作品などウケるはずがない」という懐疑的な声が社内で大半を占める中、矢口は自ら全国の釣り場を足繁く取材し、現場の熱気を原稿用紙へと叩きつけた。主人公・三平三平(みひらさんぺい)の無邪気な笑顔の裏に秘められた、自然の法則に対する深い敬意。これまでにない斬新なテーマと圧倒的なリアリズムは瞬く間に読者の心を掴み、社会現象と呼ばれる大ヒットへと昇華したのだ。