作業者を恐怖に陥れるキックバックは、決して偶発的な怪奇現象ではなく、明確な物理法則によって発生します。根本的なチェーンソーキックバック原因は、高速で走行するソーチェーン(刃)が木材などの障害物に急激に引っかかり、チェーンの運動エネルギーが瞬時に本体を突き動かす回転エネルギーへと変換されることにあります。
特に危険とされるのが、ガイドバー先端の危険性を象徴するエリア、通称キックバックゾーンです。ガイドバーの先端、時計の文字盤で例えると「12時から2時(あるいは9時から12時)」にあたる先端上部1/4の円弧部分がこれに該当します。この部分の刃が木材や周囲の枝、硬い節、石などに不用意に接触すると、カッターが木材を切断するのではなく「ガツン」と噛み込んでロックされます。
毎秒数十メートルという超高速で前進していたチェーンが先端上部で急停止した瞬間、作用・反作用の法則により、チェーンソー本体がガイドバーの先端を支点として作業者側へ跳ね上がります。でんじろう氏の実験検証や各マシナリーメーカーの計測データでも実証されている通り、跳ね上がりの所要時間はわずか約0.08秒〜0.1秒。これは人間が危険を認識して筋肉を収縮させる神経伝達時間(約0.2秒)を大幅に下回っており、腕力で抑え込むことは物理的に不可能です。
キックバックには、跳ね上がるタイプのほかにも、バーの下側が挟まれて手元に急激に引き込まれる「プルイン」、バーの上側が挟まれて本体が手前に突き飛ばされる「プッシュバック」が存在します。いずれも機械が予測不能な挙動を示すため、常に細心の警戒が求められます。