「まさか本人の声じゃないなんて、思いもしなかった」。都内に住む30代の会社員男性は、選挙期間中に届いた音声メッセージを振り返って首を振る。スマートフォンに届いたのは、支持する政党の党首そっくりの声だった。親しみやすい口調で、地元の候補者への投票を促す内容だ。だが、それは本人のものではなかった。AIが生成した極めて精巧な「ディープフェイク音声」だったのだ。
捜査当局が注目しているのは、この音声がターゲットの閲覧履歴やSNSの投稿内容を分析した上で、最も効果的なタイミングで送信されていた点だ。若年層にはフランクな口調で、高齢層には丁寧な敬語で。アルゴリズムが自動的にトーンを調整し、感情を揺さぶる。これはもはや個人の支持表明ではなく、テクノロジーを用いた世論の大量生産に他ならない。