ブータンでは、国民が学校、官公庁、裁判所、寺院(ゾン)などの公的な場所へ赴く際、民族衣装の着用が法律で義務付けられています。この規則は1989年に第4代国王ジグミ・シンゲ・ワンチュクによって発布された行動規範「ディクラム・ナムザ(Driglam Namzha:伝統的規律・作法)」に基づいています。
人口約80万人の小国であるブータンは、大国インドと中国(チベット)に挟まれた地政学的な要衝にあります。独自の言語(ゾンカ語)、チベット仏教の信仰、そして民族衣装という「文化的一体性」こそが、国家の独立とアイデンティティを守る最強の安全保障であるという国家戦略が背景にあります。
かつては取り締まりや罰金が厳格に科された時期もありましたが、2026年現在の現場では、強制された重圧というよりも「国民としての誇りと礼節」として定着しています。ただし、プライベートな自宅内、休日のスポーツ時、あるいは市場での買い物などでは、若者を中心にジーンズやTシャツなどの洋服も自由に楽しまれており、公私のメリハリを明確に分ける運用がなされています。