長年、歴史学や人類学において議論の的となってきたのが「古代の蝦夷(えみし)とアイヌ民族は同一なのか」という問題です。結論から言えば、古代の東北蝦夷と中世以降のアイヌ民族は、共通の基盤を持ちつつも異なる発展を遂げた別個の集団と定義するのが近年の定説となっています。
金沢大学や東京大学などが進める古代人骨のゲノム解析(DNA研究)により、日本列島の形成プロセスが鮮明になってきました。古代の東北蝦夷は、縄文人の遺伝的特徴を非常に強く残しながらも、弥生時代以降に大陸から渡来した集団との混血も一部で進んでいたことが判明しています。彼らは日本語と同系統の古東北方言を話していた可能性が有力視されており、朝廷側の人間と通訳なしで交渉した記録も残されています。
対してアイヌ民族は、北海道の縄文人をベースとする「擦文文化(さつもんぶんか)」の人々と、オホーツク海沿岸から南下してきた北方系の「オホーツク文化」の人々が10世紀から13世紀頃に融合して形成された文化集団です。言語的にもアイヌ語は日本語とは大きく異なる孤立した言語体系を持っています。古代蝦夷の血統や文化の一部はアイヌ民族にも共有されていますが、両者を単純なイコールで結ぶことは歴史的な誤謬といえます。