電車の自動券売機や街頭の自動販売機に慣れていると、「なぜバスの運賃箱は、投入した金額から自動でお釣りを出してくれないのか」と疑問に感じる乗客は多いはずです。現在、日本の路線バスで主流となっているのは、お釣りを自動計算して払い出す「つり銭方式」ではなく、あらかじめ小銭を作ってから運賃を支払う「両替方式」です。
この仕組みが長年採用され続けている理由は、バス特有の過酷な走行環境にあります。道路の凹凸や加減速による激しい振動、頻繁なドア開閉に伴う急激な温度・湿度変化にさらされる車内では、複雑な釣り銭払い出し機構を搭載すると「コイン詰まり」や「機械故障」の発生率が跳ね上がります。万が一運賃箱が故障すれば、その場で運行不能に陥りダイヤが大きく乱れるため、構造がシンプルで故障しにくい両替方式が優先されてきた経緯があります。
バスの運賃収受機器で国内トップシェアを誇るレシップ(LECIP)や小田原機器といった専門メーカーは、悪条件下でも確実に動作する堅牢なハードウェアを開発してきました。運賃箱の基本的な使い方は以下の通りです。
- ステップ1(乗車時):整理券発行機から整理券を取る(均一運賃区間や前払いの場合は不要)。
- ステップ2(両替の実施):小銭がない場合、停車中に運替機の紙幣挿入部(千円札のみ対応)または硬貨投入口に現金を入れ、小銭を受け取る。
- ステップ3(運賃投入):運賃表示器で整理券番号に対応する運賃を確認し、指定の小銭と整理券を同時に運賃箱の投入口へ落とし込む。
ここで極めて重要なのが「車内両替のタイミング」です。走行中に両替機へ向かって歩く行為は、急ブレーキ時の転倒事故に直結するため極めて危険です。道路交通の安全上、両替は必ず「赤信号での停車中」か「目的地に到着して完全に停車した直後」に行うのが鉄則となっています。