文学史における馬酔木は、万葉集にとどまりません。俳句の世界において「馬酔木(あしび / あせび)」は仲春(春)の季語として親しまれています。
近代俳句の潮流を語る上で欠かせないのが、医師であり俳人でもあった水原秋桜子(みずはら しゅうおうし)が主宰した俳句雑誌『馬酔木』です。
大正から昭和初期にかけて、高浜虚子が唱える「客観写生」一辺倒の俳壇に異を唱え、叙情性と色彩感覚豊かな美学を追求した「新興俳句運動」。その拠点となったのが雑誌『馬酔木』でした。秋桜子は厳冬を耐え抜いて春一番に清冽な花を咲かせる馬酔木の姿に、自らの目指す強靭な芸術精神を重ね合わせました。
また、馬酔木が持つ花言葉も非常に特徴的です。
代表的な花言葉には「犠牲」「危険」という物々しい言葉がある一方で、「清純な心」「いつもあなたと旅をしよう」といった詩的で穏やかな言葉も共存しています。「危険」「犠牲」は言わずもがなその猛毒に由来し、「清純な心」は純白で汚れのない壺状の花びらの姿から名付けられました。毒と美という相反する二面性が、花言葉の中にも鮮明に映し出されています。