『もののけ姫』において最も明確に性的な背景を持つのが、製鉄集団「タタラ場」で働く女性たちです。宮崎駿監督の公式インタビューや『もののけ姫 ロマンアルバム』(徳間書店)などの公式設定資料集において、彼女たちの前歴は「エボシ御前が買い戻した元遊女(売春婦)たち」であることが明言されています。
当時のインタビューにおいて宮崎監督は、「タタラ場の女たちは、エボシが売られた遊女屋から身請けして連れてきた連中である」と語っています。中世の日本において、遊女として売られた女性たちは過酷な性搾取と身分差別の底辺に置かれ、自力で抜け出すことは不可能でした。エボシ御前は彼女たちを金で買い取り、過酷ながらも自立して生きられる「踏み鞴」という労働の場と、男尊女卑の社会規範から隔絶されたシェルター(要塞)を提供したのです。
劇中でトキをはじめとする女性たちが、男たちに対して「男を威嚇するような威勢の良さ」を見せ、胸元をはだけて豪快に笑う姿は、地獄のような底辺生活を生き延びてきた女性たちの強烈な生命力(アニマ)の表れに他なりません。この裏設定を知ることで、タタラ場が単なる工業集団ではなく、被差別階層の女性たちの解放区であったという重層的なドラマが浮き彫りになります。