1970年代初頭の映画制作においては、監督の権力が絶対的であり、出演者、特に若い新進女優の権利を守る仕組みが圧倒的に不足していた。各国の映画倫理審査会は画面に映し出される濡れ場や暴力表現の過激さばかりを審査基準としており、その裏でどのような撮影が行われていたかには目が向けられていなかった。
『ラストタンゴ・イン・パリ』をめぐる一連の告発は、その後の映画業界における倫理観の変革に向けた重要な契機となった。今日では、濡れ場や繊細なシーンの撮影時に俳優の安全と合意を保障する「インティマシー・コーディネーター」の導入が世界的な標準となりつつある。名作の陰で起きた惨劇が、業界全体の安全網を構築するための大きな警鐘となったのだ。