本作が単なる理念の提示にとどまらず、深みのあるヒューマンドラマへと昇華した背景には、主人公2人を取り巻く脇役たちの卓越したアンサンブルがあります。
物語の大きな起爆剤となったのが、濱正悟さん演じる松岡一です。松岡は「普通に恋愛して、結婚して、子どもを産むことが一番の幸せ」と信じて疑わないキャラクターとして登場します。悪意がないからこそ咲子を無自覚に傷つけてしまう言動をとりますが、咲子や羽菜野との対話を通じて、自身の価値観を自省しアップデートしていく姿を濱正悟さんが愛嬌と誠実さを持って演じ切りました。
咲子の親友・門脇千鶴役の小島藤子さんは、多様なセクシュアリティを完璧に理解できずとも「友人が大切にしたいものを尊重する」という理想的な友人像を自然体で演じ、作品の安心感となるオアシスのような存在感を放ちました。
さらに、羽菜野の過去を知る猪塚遥役を演じた菊池亜希子さんの好演も見逃せません。かつて羽菜野と同じコミュニティに身を置き、苦悩を共有してきた遥の言葉は、羽菜野が抱えてきた過去の傷や孤独の深さを浮き彫りにし、物語に重厚な陰影をもたらしました。