多くの消費者を悩ませる「午前中に足を運んだのに限定品が1つもない」という現象。このミスド売り切れの理由を単なる「人気による品薄」で片付けるのは早計です。そこには、ミスタードーナツ各店舗が抱えるフライヤー設備とスタッフの労働工程という、物理的なボトルネックが存在します。
ミスタードーナツは、工場から完成品を配送するセントラルキッチン方式ではなく、各店舗のバックヤードで粉から生地を捏ね上げ、発酵させ、油で揚げる「店内手作り方式(スクラッチ・ベイク)」を一貫して守り続けています。早朝から出勤するドーナツメーカー(製造スタッフ)が朝一番に製造するのは、通勤・通学客が買い求める「ポン・デ・リング」「フレンチクルーラー」「チョコファッション」といったレギュラーメニューです。
極めて繊細なデコレーションやクリーム充填を要する限定ドーナツは、レギュラー品の製造が一巡した後の午前中中盤から順次仕上げ作業に入ります。したがって、開店時刻である朝7時や8時にショーケースへ並ぶことは構造的に難しく、実際の初回陳列タイミングは午前10時30分から11時30分頃に集中します。「開店直後に行けば確実に買えるはず」という消費者の思い込みこそが、空振りを生む最大の盲点となっているのです。
さらに、1回の仕込みで作れる限定ドーナツの個数は、フライヤーの面積とスタッフの手作業工程により1店舗あたり数十個から百個程度に制限されます。これが昼のピークタイム(12時〜13時)に一気に売れてしまうと、夕方の第2便製造までショーケースは完全に空になります。夕方に材料が底をついた店舗では、その日の製造自体が終了するため、会社帰りの時間帯には「本日分完売」の札が掲げられるという構図です。