作詞家としての絶頂期を経て、彼の情熱は出版業界をも揺るがす小説執筆へと向けられる。1999年に発表された『長崎ぶらぶらぶし』は第122回直木賞を受賞。長崎の花街を舞台に、名もなき人々の愛と哀感を美しい文体で描き出し、文壇に強烈なインパクトを与えた。
そして、自伝的小説である『赤い月』は、彼の創作の原点に焦点を当てた最高傑作である。幼少期に体験した満州での敗戦と、生死の境をさまよった残酷な引き揚げ体験。戦争の狂気と人間の極限状態を目撃した記憶が、彼のすべての言葉の底流に流れていたのだ。
「自分が生きて帰ってきた理由は何なのか」。その自問自答が、圧倒的な文学的熱量となって結実した。名作の裏側に秘められたこの壮絶な背景を知ることで、彼が歌詞に込めた命の重みが初めて理解できる。