日本の国語学の歴史を紐解くと、この二つの表記をめぐる面白い事実が浮かび上がる。国語学者として著名な金田一春彦氏をはじめとする言語研究者の知見によれば、歴史的に古くから使われていたのは「十分」であった。「充分」は後発的に成立したあて字、あるいはニュアンスを強調するために派生した表記とされる。
辞書界のロングセラーである三省堂の『新明解国語辞典』でも、「十分」を本項目として扱い、「充分」はその表記揺れ・当て字的な扱いとして解説されている。辞書編纂の視点からも、語源および標準表記としての正統性は「十分」にあることが明記されているのだ。