長年まことしやかに囁かれ続けている「足の毛を剃ると、以前よりも濃く太くなって生えてくる」という言説。結論から言えば、足の毛を剃ると濃くなる噂の真相は、皮膚科学において完全に否定された医学的な錯覚に過ぎません。
日本皮膚科学会の専門医らが指摘するように、毛の発生源である「毛母細胞」や毛包の数は毛穴の深部(皮下組織)に存在しており、皮膚表面の角質層から外側に出ている毛幹部をカミソリで剃り落としたところで、毛根の細胞分裂のスピードや生えてくる毛の本数が物理的に増えることは構造上あり得ません。
では、なぜ多くの人が「濃くなった」と実感してしまうのでしょうか。その背景には、光の反射と毛の断面形状が生み出す視覚的・触覚的なトリックが存在します。
自然に伸びた体毛は、先端に向かうにつれて細くなる円錐形をしています。しかし、カミソリの刃が斜めや直角に入ると、毛の最も太い胴体部分が切断され、平らな断面が皮膚表面に露出します。この平らな断面は断面積が広く、光を強く反射するため、伸び始めの短い時期には黒く太い毛が密集しているように見えてしまうのです。指先で触れた際に針のように硬く感じるのも、先端のしなやかさが失われ、太い芯が皮膚から顔を出している物理現象に過ぎません。
もうひとつの誤解の要因は、処理を始める年齢層にあります。すね毛を初めて剃る人の多くは、第二次性徴を迎える思春期です。男性ホルモン(アンドロゲン)の分泌が活発化し、生来のメカニズムとして体毛が太く濃くなっていく成長期と剃毛のタイミングが偶然一致した結果、「剃ったせいで濃くなった」という誤った因果関係の刷り込みが長年語り継がれてきました。