みそかつを未経験、あるいは他店で濃すぎるタレを経験した人々の間には、「矢場とんのタレはドロドロして甘ったるいのではないか」という根強い誤解が存在します。
この認識のズレが生じる原因は、一般的な「田楽味噌」や「甘味噌だれ」のイメージが先行している点にあります。一般的な味噌カツ店の中には、八丁味噌に多量の砂糖や水飴を加え、高粘度に煮詰めたタレを使用する例が存在します。しかし、矢場とんの秘伝のみそだれは、天然醸造の豆味噌をベースにしながらも、ポークブイヨンと出汁を用いてサラサラとした液状に仕立てられています。
分子レベルで見ると、油で揚げられた衣の気孔にサラリとした温かい出汁味噌が瞬時に浸透することで、余分な油分をマスキングし、豚肉のオレイン酸(旨味成分)と味噌のグルタミン酸が結合して相乗効果を生み出します。つまり、「重い」どころか、揚げ物の油っぽさを出汁の力で中和する計算された構造になっているのです。