経済の舵取りを担う日本銀行の植田和男総裁は、持続的・安定的な物価目標の実現に向けて「賃金と物価の好循環」が確立される重要性を訴え続けている。大規模な金融緩和策からの転換を進めるなか、春闘における大企業の大幅な賃上げ回答は景気の良いニュースとして大きく取り上げられた。しかし、その恩恵が社会全体に行き渡っているかというと、現場の温度感は大きく異なる。
日本の雇用の7割超を抱える中小企業では、原材料費やエネルギー価格の高騰分を十分に価格転嫁できず、大企業並みのベースアップを断行する経営的体力が残されていない企業も多い。大手メーカーやIT企業が過去最高の引き上げ率を記録する一方で、中小企業の現場では手当のわずかな増額にとどまるか、賃上げを見送らざるを得ない実態がある。日銀が狙う好循環の波に乗れる層と、取り残される層の差は着実に広がっている。