黒酢の特異な風味を決定づけているのが、長い時間をかけた熟成プロセスだ。鹿児島県霧島市福山町で江戸時代から続く伝統製法を守る坂元醸造株式会社のように、屋外に並べた陶器の壺で1年以上じっくりと静置発酵・熟成させる手法は世界でも類を見ない。太陽の熱と微生物の力だけで糖化、アルコール発酵、酢酸発酵を同時に進めることで、液体は深い褐色へと変化していく。
日本醸造協会の研究報告でも明らかなように、長期間の熟成を経た黒酢には、一般的な穀物酢の数倍から十数倍に及ぶアミノ酸や有機酸が濃縮されている。三杯酢が醤油由来の塩分とみりんの糖分でスピーディーに味を整えるのに対し、黒酢の深みはタンパク質がじっくり分解されて生じる天然の旨味成分そのものなのだ。