生理が始まるおよそ1週間から10日前にかけて生じる吐き気や胃の不快感は、排卵後の「黄体期」と呼ばれる期間に体内で巻き起こる急激な内分泌環境の変化が引き金を引いています。月経周期を司る女性ホルモンのうち、排卵を境にして急激に分泌量が増大するのがプロゲステロン(黄体ホルモン)です。
プロゲステロンには受精卵が着床しやすいよう子宮内膜を維持し、妊娠を成立・継続させる役割があります。その過程で子宮の収縮を抑える作用を発揮しますが、この平滑筋の緊張を緩める働きは子宮だけでなく胃や腸などの消化器官全般にも同時に及びます。結果として胃腸の蠕動運動が著しく鈍化し、食べたものが胃の中に長くとどまる「胃内容排出遅延」が引き起こされ、不快な胃もたれや逆流感、持続的なムカムカとして知覚されるのです。
さらに見逃せないのが、自律神経系への強い影響です。排卵後から生理直前にかけては、精神の安定に関与する神経伝達物質「セロトニン」の合成を促すエストロゲン(卵胞ホルモン)が急速に低下します。このホルモン値の急落(ホルモン・ドロップ)によって脳内のセロトニン濃度が著しく減少し、自律神経の交感神経と副交感神経のバランスが瓦解します。自律神経は消化管の運動を精密に制御しているため、この狂いが嘔吐中枢を過剰に刺激し、食欲不振や突発的な嘔気へと直結します。