「家族の足がパンパンに膨れ上がっているのに、主治医から『脱水状態なので点滴で補水します』と言われ、頭が混乱した」――医療現場の取材において、患者の家族から最も多く寄せられる戸惑いの声がこれです。
身体の外見だけを見れば、水分過剰で溢れかえっているように映ります。しかし、細胞間隙や体腔(腹水・胸水)という、生体機能に寄与しない空間(サードスペース)に水分が逃亡した結果、心臓や脳、腎臓を巡る循環血漿量は極端に減少しています。これこそが臨床現場で警戒される血管内脱水の病態です。
循環血液量が目減りすると、血圧低下を防ぐために生体の危機管理システムである「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)」や交感神経系が過剰作動します。腎臓は「体内から水が失われている」と誤認し、尿を止めてナトリウムと水分を必死に再吸収します。しかし、取り込まれた水分はアルブミンが足りないため血管内に保持できず、再び間質へとダダ漏れになります。結果として「浮腫はさらに悪化し、血管内は干からびたまま腎血流が途絶えて急性腎障害(AKI)に陥る」という、恐るべき悪循環(Vicious cycle)が完成してしまうのです。