単なる疲れや運動不足では説明がつかない場合、階段でつまずきやすい病気が水面下で進行している可能性を考慮しなければなりません。特に20代・30代で発症するケースにおいて、見逃されやすい代表的な病態が存在します。
見極める上で極めて重要な指標となるのが、深部感覚障害の初期症状です。深部感覚とは、筋肉や関節、腱の受容器から「手足が現在どう曲がっているか」「地面にどのように足が接地しているか」を脳に伝える感覚です。この経路に障害が生じると、目で見ているときは歩けても、足元から視線を外した瞬間や薄暗い階段を下りる際に、足の着地点が分からなくなります。「靴下を何枚も重ね履きしているような皮膚の感覚」「平坦な道でも地面がフワフワとスポンジのように感じる違和感」は、深部感覚障害の典型的な前兆です。
具体的に疑われる疾患としては、頸椎の変形によって脊髄が圧迫される「頸椎症性脊髄症」が挙げられます。デスクワークによる極度のストレートネックが若年性の頸椎変形を招き、下肢への神経伝達を阻害して痙性歩行(足がつっぱって階段で引っかかる状態)を引き起こすケースです。また、20代から40代の女性に好発する神経系の自己免疫疾患である「多発性硬化症(MS)」や、末梢神経に炎症が起きる各種ニューロパチー、重症筋無力症なども初期段階で階段昇降時の脱力やつまずきとして現れます。
さらに、突然訪れる「膝折れ(drop attack)」が頻発する場合、膝関節の靭帯損傷だけでなく、大腿四頭筋を支配する大腿神経の障害や中枢神経系の異常が関与している疑いがあります。数日休養を取っても症状がぶり返す場合、症状の背後にある神経学的要因を疑う視点が欠かせません。