日本の児童文学における恐怖体験の原点として、世代を超えて語り継がれているのが、せなけいこ作の『ねないこだれだ』(福音館書店)だ。「夜遅くまで起きている子は、おばけの世界へ連れて行かれてしまう」という容赦ない結末。救いも反省の機会も与えられないまま物語が終わる衝撃は、長年多くの読者を震え上がらせてきた。作者のせなけいこ氏は生前、この作品を「しつけのための本」ではなく、純粋に子どもが面白がる「おばけの世界」を描いたものだと明かしていた。しかし、その突き放したリアリティこそが、幼児期の深層心理に強烈な印象を刻んだ。
一方で、岩崎書店から刊行されている斎藤隆介作・滝平二郎絵の『モチモチの木』もまた、忘れがたい衝撃を与える。木版画独特の陰影と、漆黒の夜空に浮かび上がる切り絵の独特な静けさ。病気の祖父を救うために必死で走る豆太の勇気と、翌朝には元通りの怖がりへと戻ってしまう人間味溢れる描写。滝平二郎氏の手掛けた力強いイラストは、美しさと背中合わせの恐怖を幼心に深く残した。これらの名作には、単なる恐怖演出を超えた極めて高度な芸術性と制作意図が隠されている。