痛ましい事故の記憶と、人里離れた笹子峠の深い山林というロケーションが重なり、近年インターネット上やSNSでは「笹子隧道周辺で怪奇現象が起きる」「怪しい影や声が聞こえる」といった都市伝説めいた噂が囁かれるようになった。心霊スポットとして旧隧道や廃道付近を訪れる若者が後を絶たないという噂の真相を確かめるべく、取材班は夜間の現場調査を実施した。
現地で確認されたのは、怪奇現象の真実ではなく、地形と気象条件が生み出す極めて物理的な現象であった。笹子峠特有の強い谷風が狭隘なトンネル坑口を抜ける際、低周波の重低音(風切り音)が発生し、これが人間の耳には不気味な呻き声のように誤認されるケースが多発している。また、標高差による激しい寒暖差と高い湿気が発生させる濃霧は、車光や街路灯を複雑に屈折させ、あたかも不自然な人影が浮き出たかのような錯覚を引き起こす。都市伝説の裏側にあったのは、怪異ではなく、笹子峠が持つ過酷な自然環境と、事故の悲劇性が人々の心理的バイアスと結びついた結果であった。