幕末の足音が聞こえる安政三年、三島の地に生まれた店が今や日本屈指の有名店となった。歴史の重みを感じさせる木造の風情ある建物は、訪れる者を一瞬で昔ながらの情緒へと引き込む。しかし、暖簾を守り継ぐ当主の廣瀬重雄氏をはじめとする職人たちが最も心血を注ぐのは、目に見えない「仕込み」のプロセスだ。
三島の名物として知られる蒲焼の最大の特徴は、「晒し(さらし)」と呼ばれる工程にある。運ばれてきた生きた鰻を、数日間にわたって冷たい富士山伏流水に晒し続ける。富士の積雪が数十年をかけて地中を通り、湧き出たミネラル豊富な冷水。この清流に晒すことで、鰻特有の泥臭さや余分な脂分が綺麗に削ぎ落とされ、身がキュッと引き締まる。一口食べればわかる雑味のない澄んだ味わいは、三島の自然環境と職人の意地が生み出した奇跡なのだ。