ファンの間で長年議論が絶えないのが、作品後半で描かれる水没した町が「死後の世界(黄泉の国)」ではないかという都市伝説だ。嵐の翌日、宗介とポニョが舟で漕ぎ出す風景はあまりに静寂で、美しくもどこか異様な空気を纏っている。車椅子生活を送っていたデイサービスセンターの老人たちが陸上で元気に走り回る描写や、古代魚が泳ぐ水中都市の光景が、その説を強力に後押しした。
しかし、この説に対するジブリ公式や関係者の視点はより本質的だ。あの水没した世界は死後の世界そのものというよりも、生と死、太古と現代の境界線が融解した「神話的空間」と解釈するのが自然だろう。宮崎駿監督が描いたのは、災厄によって一度リセットされ、生命が本来持つ力強さを取り戻した世界の姿だ。死の世界ではなく、むしろ過剰なまでに溢れ出た「生」のエネルギーそのものを表現しているのだ。