「ひじきを食べれば鉄分がたっぷり摂れる」という常識が覆された発端は、文部科学省が発表した日本食品標準成分表の改訂にあります。従来の成分表(五訂・2000年版)では、干しひじき(ステンレス釜以外の旧来製法)100gあたりの鉄分は55.0mgと記載されていました。しかし、2015年版(七訂)以降の改訂データでは、ステンレス釜で加工された干しひじき(芽ひじき)の鉄分が6.2mgへと大幅に修正されたのです。
この約9割減という衝撃的な数値の変化から、「ひじきの鉄分は嘘だったのか」と失望する声が相次ぎました。しかし、これはひじき自体の栄養価が劣化したわけでも、過去の測定に不正があったわけでもありません。最大の理由は、収穫後の渋抜き・乾燥工程で使われる鉄釜とステンレス釜の違いにありました。
もともと海で育つ生のひじき自体には、突出した鉄分が含まれているわけではありません。かつての製法では、巨大な鋳物の「鉄釜」でひじきを何時間も煮沸加工していたため、釜の表面から溶け出した鉄分がひじきへ大量に移乗していたというのが実態だったのです。工場の近代化に伴い、衛生管理や耐久性に優れたステンレス釜への転換が進んだ結果、本来ひじきが持っていた真の鉄分量が浮き彫りになりました。