1969年(昭和44年)11月、阪急電鉄の梅田駅(現・大阪梅田駅)拡張移転に伴って誕生した阪急三番街。その最大の特徴であり、全国的な話題を呼んだのが「地下を川が流れる街」という斬新なコンセプトでした。南館地下2階の中央を全長約170メートルにわたって水路が貫き、水車やトレビの泉を彷彿とさせる噴水が配置され、買い物客が願いを込めてコインを投げ入れる光景は梅田の名物として定着していました。
しかし、この情緒ある水路は2016年から2017年にかけて実施された全館規模の全面改装工事によって姿を消すこととなりました。阪急電鉄および施設運営関係者の当時の記録によると、撤去の決定打となったのは「防災・減災対策の抜本的強化」と「歩行者動線のボトルネック解消」という、極めて現実的な都市機能の課題でした。
開業から45年以上が経過した当時、地下構造物内の水利設備や配管の老朽化は深刻なメンテナンス負荷を生み出していました。加えて、インバウンドの急増に伴うスーツケース携行者の増加や、車いす・ベビーカー利用者の円滑な移動を確保するためには、中央を分断していた水路スペースを通路へと転換し、有効道幅を拡大することが不可避となったのです。情緒を惜しむ声は根強く存在したものの、災害時の避難安全性を高め、バリアフリーを推進する都市再生の論理が優先されました。
撤去後の空間には、日本唯一のレゴ®認定プロビルダー・三井淳平氏らが手掛けた精緻な作品が並ぶ「阪急ブリックミュージアム」が設置されました。かつて水路が担っていた「人々が立ち止まり、憩う」という滞留価値を、現代的なアートとポップカルチャーへと昇華させることで、空間の記憶は新たな形で継承されています。