アルベールビル五輪の戦いは、波乱の幕開けでした。規定演技のショートプログラムにおいて、手堅くまとめようとしたジャンプのコンビネーションで失敗。痛恨のショートプログラム4位という苦しいスタートを切ることになります。首位にはミスのない華麗な演技を見せたクリスティ・ヤマグチ選手が立ち、金メダルへの道は極めて険しいものとなりました。
そして迎えた運命のフリースケーティング。伊藤さんは背水の陣でリンクに上がります。しかし、演技中盤に組み込んだ大技・トリプルアクセルでまさかの転倒。フェンスに激突するほどの衝撃に、会場には悲鳴が響き渡り、誰もが「これでメダルは消えた」と絶望視しました。
ここからが、今なお語り草となっている伊藤みどりフリー伝説の真髄です。通常の選手であればパニックに陥り、残りの演技を無難にこなすことすら困難な局面。しかし彼女は違いました。頭の中で瞬時にジャンプの構成を組み替え、演技終盤の連続ジャンプの予定位置で、急遽もう一度トリプルアクセルを跳ぶ決断を下したのです。
助走に入った瞬間、会場の空気が一変。鋭い踏み切りから高く宙を舞い、完璧な着氷を見せた瞬間、会場全体が地鳴りのような大歓声とスタンディングオベーションに包まれました。失敗した直後に同じ最高難度の技を跳び直して成功させるという前代未聞の勝負強さで、見事に日本女子フィギュア史上初の銀メダルをもぎ取ったのです。