鳥葬が定着した背景には、宗教観だけでなくチベット高原の過酷な自然環境という物理的な制約も深く関係しています。世界各地の埋葬形態と比較すると、その合理性が浮き彫りになります。
樹上や洞窟に遺体を安置して風化を待つ「風葬」や、地中に埋める「土葬」は、標高4,000〜5,000メートルの高地では困難を極めます。チベットの大地は大部分が岩盤と永久凍土に覆われており、遺体を深く埋める穴を掘削することが物理的にできません。浅く埋めれば野生動物に荒らされ、衛生上の深刻なリスクをもたらします。
一方、木材を燃やす「火葬」は、森林限界を超えた高原地帯では貴重な薪が手に入りません。高僧や転生ラマなどごく一部の特権階級を除き、一般庶民が火葬を行う燃料の確保は不可能でした。川に流す「水葬」も存在しますが、水源を汚染する恐れや魚類への信仰から一段低い扱いを受けるケースが多いのが実情です。凍土を掘らず、薪を使わず、疫病を防ぎつつ自然へ還元する――鳥葬は、極限の高地で衛生と生態系を保つために編み出された必然の知恵でもありました。