『タッチ』を語る上で避けて通れない最大のターニングポイントが、コミックス第7巻で描かれた上杉和也の交通事故死です。地区予選決勝の朝、試合会場へ向かう途中で道路に飛び出した子供を庇ったことで命を落とすという展開は、当時の連載陣や読者に凄まじい衝撃を与えました。
この悲劇的なイベントは単なるサプライズではなく、あだち充氏が連載開始当初から決めていた必然の構成でした。タイトルの『タッチ』は、弟から兄への「バトンタッチ」を意味しており、出来損ないに見えていた兄・達也が真の主役として立ち上がるために用意された絶対的な試練だったのです。
当時の担当編集者は人気の絶頂にあった和也の死亡に猛反対したものの、あだち氏は「和也が生きていては達也が本気を出せない」と自身の作家性を貫きました。死の直接的な瞬間を生々しく描くのではなく、遺影や静まり返った控室、鳴り響くサイレンといった間接的な演出で喪失感を表現したコマ運びは、漫画史に残る名演出として高く評価されています。