『鎌倉殿の13人』における大泉洋の演技は、放送当時ネット空間を異様な熱気で包み込みました。特に、源義経(菅田将暉)の討伐や弟・範頼(迫田孝也)の幽閉、木曽義高(市川染五郎)の処刑など、血も涙もない粛清劇が重なるたびに、SNS上では「#全部大泉のせい」というハッシュタグが自然発生的に誕生。放送日である毎週日曜日の夜にはTwitter(現X)の日本のトレンドおよび世界トレンドで1位を幾度も記録する社会現象へと発展しました。
なぜ大泉洋の源頼朝は、これほどまでに視聴者を戦慄させ、同時に惹きつけたのでしょうか。現場の制作証言や当時の会見資料を紐解くと、そこには脚本家・三谷幸喜と大泉洋が綿密に仕掛けた心理的トラップが存在していました。
三谷幸喜は制作発表や各種対談において、大泉洋に対して「頼朝は中盤以降、日本中から嫌われる男になる。それを演じられるのは、普段どれだけ悪事を働いても国民から嫌われないチャーム(愛嬌)を持った大泉洋しかいない」と起用理由を語っています。視聴者は大泉洋が持つ本来のパブリックイメージ(陽気で親しみやすいキャラクター)に安心感を抱いて物語に入り込むため、その仮面の下から冷酷非情な政治判断が下された瞬間、落差による認知的恐怖が何倍にも増幅される構造になっていたのです。
さらに、第25話「天が欲した男」で描かれた死亡シーンの反響は凄まじいものでした。これまで数々の命を奪ってきた頼朝が、過去の亡霊や因果に怯え、水を飲もうとして喉を詰まらせ、馬上で意識を失って崩れ落ちる静謐な幕引き。ネット上では「あんなに憎たらしかった頼朝なのに、いざ退場すると圧倒的な喪失感がある」「頼朝を失った鎌倉の暗黒期が怖すぎる」といった声が殺到し、単なる悪役に留まらない深みのある人間ドラマとして賞賛を浴びました。