壁内の人類が「人類の天敵」と信じ込んでいた巨人の正体――それは神の罰でも自然発生した新種生物でもなく、壁外の大陸に生きるエルディア人(ユミルの民)そのものでした。マーレ政府に反抗した同胞が見せしめとしてパラディ島の境界線から突き落とされ、首筋に巨人化薬(巨人の脊髄液)を注射されて知性のない化け物へと変貌させられていたという事実は、読者と作中人物の双方に底知れぬ衝撃を与えました。
この忌まわしき悲劇の源流を遡ると、およそ2000年前に存在した一人の奴隷少女、ユミル・フリッツに行き着きます。部族の長であった初代フリッツ王から理不尽な追手を受け、逃げ込んだ巨木の洞で「有機生物の起源」とおぼしき未知の生命体と接触したことで、彼女は人類史上初の巨人の力を得ました。しかし、得た力は彼女を幸福にすることはありませんでした。ユミルは生涯を初代フリッツ王の奴隷として酷使され、敵国の蹂躙やインフラ整備のための道具として使役され続けたのです。
ユミルの死後、初代フリッツ王はその絶大な力を散逸させないため、娘たち(マリア、ローゼ、シーナ)に母の遺体を共食いさせました。肉と骨を喰らい、脊髄液を継承させるというおぞましい儀式によって巨人の力は細分化され、やがて「知性を持つ九つの巨人」と、その支配下にある無数の無垢の巨人という構造が成立しました。死後もユミルの魂は生と死の狭間にある「道」が交わる空間に囚われ、現世のエルディア人が巨人化するたびに、気の遠くなるような時間をかけて砂で巨人の肉体を捏ね上げ続けていたのです。