古典文学において最も有名な悪魔契約といえば、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの戯曲『ファウスト』です。あらゆる学問を修めながらも人生の虚無に絶望した碩学ファウスト博士は、悪魔メフィストフェレスと「現世であらゆる快楽と知識を享受する代わりに、魂の充足を感じて『時よ止まれ、お前は実に美しい』と口にした瞬間、魂を悪魔に明け渡す」という契約を交わします。
ゲーテ版では最終的に神の救済が描かれますが、元となった16世紀の民衆本『ファウスト博士の物語』では、期限の24年が経過した夜、博士は悪魔によって無残に八つ裂きにされ、地獄へと引きずり込まれるという陰惨極まりない結末を迎えています。
地獄の掟において、契約書の効果は絶対的です。中世の魔術書(グリモワール)に記された悪魔の契約書では、血による署名が求められ、一度サインがなされれば現世のいかなる法や権力も介入できません。契約者が一時的な栄華を誇ったとしても、定められた刻限が訪れた瞬間にすべてを奪い去られるのが、悪魔取引の厳然たる結末です。