フジテレビ版『大奥』における宮舘涼太の起用は、発表当初こそ「アイドルの時代劇挑戦」という先入観で見られる向きもありました。しかし、第1話の登場からその懸念は瞬く間に払拭されます。彼が演じた松平定信は、徳川吉宗の血を引きながらも将軍職に就けなかった出自への深い劣等感と、小芝風花演じる五十宮倫子への歪んだ執着、そして亀梨和也演じる第10代将軍・徳川家治への復讐心に燃える極めて複雑なヒール(悪役)でした。
宮舘が魅せた演技の真骨頂は、「静寂が生み出す狂気」にあります。大声で怒鳴り散らすようなステレオタイプの悪役像ではなく、穏やかな笑みを浮かべながら相手の急所を突く冷徹さや、誰もいない部屋で一人怒りに震える微細な筋肉の痙攣まで、表情のグラデーションを緻密にコントロールしていました。
当時の制作発表や雑誌の単独インタビューにおいて、宮舘本人は次のように語っています。「定信の行動は外から見れば狂気かもしれないが、彼自身の中には絶対に譲れない『美学』と『正義』がある。その孤独を誰よりも理解して演じたい」。この深い人物理解こそが、単なる悪役に留まらない、どこか悲哀と気品を漂わせる立体的なキャラクター造形を可能にした要因でした。
特に視聴者の間で大きな話題を呼んだのが、中盤から終盤にかけての「闇落ち」のプロセスです。倫子を手に入れるため、そして幕府の権力を掌握するために手段を選ばなくなっていく定信の姿は、SNS上で「恐ろしすぎて鳥肌が立つ」「舘様だと分かっているのに直視できない」と評され、その圧倒的な怪演ぶりは木曜夜のトレンドを独占し続けました。