経済的リターンが望めないにもかかわらず、なぜ資産家や経営者たちは莫大な私財を投じてタニマチとなるのでしょうか。そこには日本固有の社会心理と、人間の深い自己実現欲求が関係しています。
第一の理由は、「男気(おとこぎ)」と「社会的ステータス」の誇示です。相撲部屋の大関・横綱に豪華な懸賞旗を出し、本場所で最前列の溜席(砂かぶり)に座ることは、それ自体が一流の成功者である証として財界や地域社会に認知されます。かつて昭和の大物実業家たちがこぞって角界や歌舞伎界のタニマチとなったのは、富の誇示であると同時に、日本の伝統文化を陰で支えているという誇り(ノブレス・オブリージュ)の表れでもありました。
第二に、「代理の夢」を託す心理的同化が挙げられます。自らが土俵に立つことはできなくても、自分が目をかけた若い才能が厳しい修行を経て関取へ昇進し、土俵中央で勝ち名乗りを受ける姿に、自らの人生の成功を重ね合わせるのです。芸能界における若手俳優や劇団の支援、あるいはインディーズのミュージシャンを支えるタニマチにも、同様の心理構造が働いています。
第三に、濃密な人間関係と「身内感」の獲得です。一般人では立ち入れない稽古場の息づかいに触れ、打ち上げで同じ鍋を囲み、個人的な相談に乗ることで得られる「特別な居場所」は、金銭では買えない心理的報酬となっています。