工房 楔を率いる職人、永田篤史氏が削り出す筆記具には、原木への深い敬意と執念が宿っている。彼の手にかかると、数十年から数百年の歳月を生き抜いた木材が、息をのむほど滑らかな筆記具へと生まれ変わる。単に木を削るのではない。木目、導管の走り方、比重、そして乾燥状態をミリ単位で見極め、指先に最も心地よくフィットする黄金比を導き出していく。
量産品のプラスチックや金属軸にはない、個体ごとの決定的な差異。これこそが愛好家を惹きつける最大の要因だ。同じ樹種であっても、切り出す角度や深さによって現れる表情は全く異なる。手にした瞬間から所有者だけの相棒となり、手の脂や日々の筆圧によって色艶が変化していく。この濃密な経年変化のドラマが、使い手の探求心をどこまでも刺激する。