数年前まで、世の中は「タイパ(タイムパフォーマンス)」の二文字に支配されていた。動画は2倍速で再生され、本は要約アプリで短縮され、効率よく知識を得ることが賢い生き方だと信じられていた。しかし、その極限に到達した2026年の私たちが手にしたのは、何とも言えない空虚感だったのではないか。
「時間を節約して、その節約した時間でさらに別の効率的なことを探す。まるで終わりのないハムスターの回し車に乗っているようでした」。都内のコンサルティング会社を退職し、現在は古道具の錆(さび)を研磨する作業に没頭しているという40代男性は振り返る。役に立つことばかりを追い求めた結果、私たちは自分自身の「好き」という直感を麻痺させてしまっていたのだ。