音楽理論と映像演出の両面から本作を分析すると、極限まで無駄を削ぎ落とした芸術性が浮かび上がります。
『Easy On Me』のピアノ・コード進行は、Fメジャー(ヘ長調)を主調としています。イントロからAメロにかけては「F - Dm - F/C - Bb」という王道でありながらどこか哀愁を帯びたベースラインの下降進行が繰り返され、聴き手の胸に静かに染み渡ります。サビに向かってGm7からBbへとクレッシェンドしていく展開は、抑えきれなくなった感情の吐露を見事に音楽化しています。
また、世界的映像作家グザヴィエ・ドラン監督がメガホンをとったミュージックビデオ(MV)には、過去作との緻密な連動が施されています。撮影ロケ地となったのは、カナダ・ケベック州サットン(Sutton)にあるワイナリー「Domaine Howard」の敷地内にある歴史的邸宅です。
MVの前半は『Hello』を彷彿とさせるモノクロの世界で始まります。アデルが古い家を売り払い、トランクを車に積み込んで出発すると、曲の中盤から画面が突如として鮮やかなフルカラーへと変化します。これは、過去の傷や執着を手放し、自らの足で新たな未来へと走り出したアデルの精神的覚醒を完璧に表現しています。