なぜ、あれほど過酷な現場に耐えられたのか。それは、蜷川の言葉の裏に、底知れない「愛」があったからだ。蜷川は、役者が本当に良い演技を見せた瞬間、子供のように相好を崩して喜んだ。その一瞬の笑顔と肯定を手に入れるために、俳優たちは泥水をすするような努力を重ねたのだ。
小栗はかつて、蜷川の演出を「牢獄のようでありながら、最も自由になれる場所」と表現した。ガチガチに縛られたルールの中で、自分自身の限界を突破した瞬間にだけ訪れる、本当の解放感。それを一度知ってしまった表現者は、もう二度と生ぬるい表現には戻れない。それこそが、蜷川が仕掛けた最大の「呪縛」であり、最高のギフトだった。