映画『アイアムアヒーロー』のエンドロールを見届けた観客の誰もが、鈴木英雄たちの「その後」をスクリーンで目撃したいと願いました。実際、公開直後は興行関係者の間でもシリーズ化への期待が少なからず囁かれていたにもかかわらず、なぜ企画は今日まで凍結されたままなのでしょうか。映画業界の構造的要因と制作現場の証言を突き合わせると、4つの決定的な障壁が浮かび上がってきます。
第1の要因は、制作コストと興行収入の費用対効果です。本作の最終興行収入は約16.2億円を記録しました。R15+指定を受けたハードコアなパニックホラー映画としては異例の大健闘でしたが、韓国のアウトレットモールを丸ごと貸し切って敢行された大規模ロケーション撮影、膨大なエキストラ動員、精緻な特殊メイクと先鋭的なVFXに投じられた予算規模を考慮すると、製作委員会が「即座に第2弾へ莫大な追加投資を決断できる大爆発」には一歩届きませんでした。
第2の要因は、主演級キャスト陣の爆発的なステータス上昇に伴うスケジューリングとギャランティの壁です。鈴木英雄を演じた大泉洋、早狩比呂美を演じた有村架純、そして藪を演じた長澤まさみ。今や日本映画界およびテレビ界の主軸を担うトップランナーとなった3人を長期間拘束し、血飛沫と泥にまみれる過酷なアクション現場へ呼び戻すことは、キャスティングの実務上、天文学的な難易度を伴います。
第3に、メガホンを取った佐藤信介監督のプロジェクトシフトが挙げられます。佐藤監督は本作で培ったダイナミックな群衆アクションと高度な映像統括力を買われ、後に『キングダム』シリーズやNetflixの世界的メガヒット作『今際の国のアリス』シリーズの総指揮へと邁進しました。数年先まで超大作のスケジュールが埋まるなかで、あえて本作の続編にリソースを割く余力が物理的になかったという側面は否定できません。
そして第4の、最大のハードルが「原作漫画の終盤展開の実写化難易度」です。花沢健吾による原作漫画は、アウトレットモール編を終えた後、舞台を東京・池袋や江の島へと移し、ZQNの集合知化や巨大生命体への融合といった哲学的・終末SF的な超展開へと突き進みました。全22巻で完結した原作のスケール感を実写映画の尺と予算でまとめ上げることは至難を極め、「ショッピングモールからの脱出で完結させた映画版の美しさを損なうリスク」をクリエイター陣が避けたとも分析されています。