ネット上の情報やSNSの切り抜きだけを見ていると、木爾チレンという作家に対していくつかの誤解が生じているケースが見受けられます。長年の活動を知る記者として、ここで3つの盲点を正しておきましょう。
第一の誤解は、「TikTokのバズによって突如現れた新人作家」という思い込みです。前述の通り、彼女は2009年にポプラ社小説大賞を受賞してから15年以上のキャリアを誇るベテランです。ライトノベルやノベライズなど、膨大な執筆量をこなす中で「読者を飽きさせないテンポ感」と「フックの効いたプロット構築」を鍛え上げてきたからこそ、流行に左右されない強固なヒット作を生み出すことができたのです。
第二の誤解は、「刺激的なイヤミスやサスペンスしか書かない作家」という認識です。『みんな蛍を殺したかった』や『殺した夫が帰ってきました』の印象があまりにも強烈なため、ホラーやサスペンス専門の書き手と思われがちですが、それは一面に過ぎません。『神様の残業』に代表される温かな人情劇や、京都を舞台にした風情ある情緒小説など、その作風の幅広さは文壇でも屈指の柔軟性を誇ります。
第三の誤解は、「作者自身の素顔や本名に関する憶測」です。ネット上では「本名や顔写真が特定されたのではないか」といった真偽不明の噂が囁かれることがありますが、公式には一切流出しておらず、信頼できる公的メディアで明かされた事実はありません。作者自身が自身の属性を過度に消費させず、作品の力だけで勝負し続けている点も、読者から信頼される大きな要因となっています。