日本においてこの幻の都市が特別な響きを持つようになった背景には、文豪・井上靖の存在がある。1959年に発表された名作小説『楼蘭』は、過酷な国際情勢に翻弄される小国の悲哀と、砂漠に生きる人間たちの矜持を格調高い文体で描き出した。大国である漢と匈奴の狭間で揺れ動く王族の葛藤、そして砂塵に消えゆく都市の運命――。
井上靖が紡ぎ出した歴史フィクションは、単なる歴史の再現にとどまらず、失われた古代への強烈な郷愁を日本人の心に植え付けた。学術的な遺跡の向こう側に、血の通った人間たちのドラマを見出す視点は、今なお多くの歴史ファンを惹きつけてやまない。