「雪月花(せつげつか/せつげっか)」という言葉のルーツは、平安文学ではなく、中国・唐代を代表する大詩人・白居易(白楽天)が詠んだ漢詩『殷協律に寄す(きんきょうりつによす)』の一節に遡ります。
当時、杭州の刺史(長官)としての任期を終えた白居易は、かつての部下であり親しい友人でもあった殷協律(殷堯藩)を偲んで次の詩を送りました。
【原詩抜粋】 琴詩酒友皆抛我(琴も詩も酒の友も、みな私を捨てて去ってしまった)
雪月花時最憶君(雪の冬、月の秋、花の春、この美しい四季の折々に、私は最も君を思い出す)
この詩の現代語訳が示す通り、「雪月花」という表現は単なる風景のスケッチではありません。白居易にとっての雪月花とは、「冬の澄んだ雪景色を見ても、秋の澄み渡る名月を仰いでも、春の満開の桜(花)を眺めても、かつて共に過ごしたあなたが隣にいない寂しさが募る」という、痛烈な追慕と孤独の情景描写だったのです。
平安時代に編纂された『和漢朗詠集』にこの詩が採録されたことで、日本国内でも貴族層を中心に広く定着。『源氏物語』や『枕草子』をはじめとする古典文学、さらには世阿弥の大成した能楽などへ引用され、「日本の美意識」を形作る中核概念へと昇華していきました。