業界内では古くから「実務上は電験二種があれば全国の設備の99%に対応できるのだから、一種を取るのは自己満足に過ぎない」という冷めた言説が存在します。この「二種で十分論」は、コストパフォーマンスという観点だけを見れば一面の真理を含んでいます。しかし、電力システム改革の進展と脱炭素電源の大規模開発が進む現代において、一種ホルダーに対する評価と処遇は再び大きな高まりを見せています。
まず年収面について検証します。一般的なビルメンテナンスや保安管理業務において、電験三種保持者の年収が400万〜550万円、電験二種で600万〜800万円前後であるのに対し、電験一種保持者は大手電力会社、プラントエンジニアリング、総合重電メーカーの管理職・専門職として800万〜1,200万円クラスに達するケースが珍しくありません。さらに、洋上風力発電所や超高圧連系蓄電所、大規模データセンターの新設ラッシュに伴い、特別高圧系統に精通した一種保持者の求人需要は極めて逼迫しています。
加えて見逃せないのが、定年退職後における「生涯現役の切符」としての価値です。70代を超えても超高圧変電設備を持つ重要インフラ企業から技術顧問や専任保安統括者として月額数十万円の報酬で招聘される事例が多く、生涯獲得賃金の観点で見れば、投じた数千時間の学習コストを遥かに上回る経済的リターンをもたらします。何より、技術者コミュニティにおける「電験一種ホルダー」という肩書は、言葉を交わさずとも相手の知的能力と不屈の継続力を証明する最強の信認状として機能します。