古谷一行という俳優を語る上で欠かせないのが、映像史に残る多面的なキャラクターの演じ分けです。若い頃は劇団俳優座の養成所で基礎を徹底的に叩き込み、舞台で培った確かな発声と身体表現を武器に映像の世界へ進出しました。
とりわけ1977年に放送を開始したTBS系『横溝正史シリーズ』およびその後のテレビ映画シリーズにおける金田一耕助役は、古谷さんの代名詞となりました。原作の持つおどろおどろしい世界観のなかで、ボサボサ頭に絣(かすり)の着物、お椀型の帽子をかぶり、人懐っこい笑顔と鋭い推理を両立させた演技は、原作者の横溝正史氏本人からも「私のイメージする金田一耕助そのもの」と絶賛されました。映画版の石坂浩二さんと並び、通算47作品で金田一を演じ切った記録は金字塔として今も破られていません。
一方で、1980年代から1990年代にかけては「大人の恋愛ドラマ」の主役として一世を風靡します。1983年の『金曜日の妻たちへ』(TBS系)では不倫というテーマを洗練された都会派ドラマへ昇華させ、1997年の日本テレビ系ドラマ『失楽園』では川島なお美さんとともに許されぬ愛に溺れていく主人公・久木祥一郎役を熱演。激しい情愛と中年男性の哀愁を見事に体現し、社会現象を巻き起こしました。