八五郎の知名度を落語界から全国のお茶の間へと押し広げたのが、野村胡堂原作の捕物帳『銭形平次捕物控』です。ここで登場する平次の子分・八五郎は、ガラガラした声と騒々しい性格から「ガラッ八(ガラッパチ)」の通り名で呼ばれました。
テレビドラマ版では、名優たちが演じるガラッ八が銭形平次(大川橋蔵ら)の沈着冷静な推理と好対照をなし、物語のムードメーカーとして欠かせない存在となりました。現場に真っ先に駆けつけては突飛な推理を口にして平次にたしなめられつつも、持ち前のフットワークと人脈で重要な証言を拾い集めてくるガラッ八は、落語の八五郎が持つ「おっちょこちょいだが憎めない行動力」をそのまま時代劇のバディ構造へと見事に昇華させた好例です。
一方、本家である古典落語において、八五郎をいかに演じるかは噺家の力量を測る最大の試金石とされてきました。五代目古今亭志ん生、八代目桂文楽、五代目柳家小さん、そして立川談志に至るまで、名人と称される歴代の噺家たちはそれぞれ独自の八五郎像を確立してきました。
志ん生が演じる八五郎は、どこか浮世離れした脱力感と天真爛漫な狂気を含み、小さんが演じる八五郎は、長屋の路地裏に本当に実在するかのようなリアルな職人気質の粗忽さを見せました。演者の息遣い一つで「ただの愚か者」にも「愛すべき人生の達人」にも変化する点に、八五郎という造形の深遠さがあります。